観光社会学

科目名	観光社会学
教員名	須藤　廣
単位数	2	学年	3･4	開講区分	文理学部
科目群	社会学科
学期	集中	履修区分	選択

授業テーマ	2016年、日本を訪れる外国人の数が2,400万人を超え、観光は日本の重要な産業の一つとなろうとしている。しかしながら現在、観光が注目されているのは産業としてだけではない。観光は社会関係の創造、文化の創造とも大きく関わっている。世界的なグローバリゼーションの進展は、ローカルの価値を活性化させる役割も果たしてきた。現在、観光はグローバルなまなざしによってローカルの価値を再発見、あるいは再創造する「メディア」になろうとしている。人間は、他者に見られることによって自分とは何かを確認する。観光者に見られることによって、私たちは社会的アイデンティティを獲得している。　このように集合的アイデンティティやプライドの問題が関わる「観光化」（＝場所のイメージ化）は、様々な社会的問題ももたらしている。よく問題としてあげられる観光客による自然破壊のみならず、観光は、文化のねつ造（あるいは創造）、社会的分裂、あるいは場所のイメージをめぐる政治的駆け引き等、社会的矛盾ももたらし、また同時にそれに対抗する勢力をも生み出している。観光は「イメージ」をめぐる社会的葛藤の最前線なのである。この授業では観光を社会学の一分野として客観的（あるいは間主観的）に捉え、観光現象をとおして後期近代における資本主義社会の構図を考える。
授業のねらい・到達目標	・観光から現代の文化消費社会について理解する。・移動と観光文化がもたらす社会関係の創造、文化の創造について考える。・観光文化がもたらすステレオタイプ、文化の押しつけ、社会的矛盾について考える。・現象が理論の枠を超える観光現象についてフィールドワークから学ぶ。・観光とメディアとの関係、観光地自体が持つメディア性を考える。・観光とイメージをめぐる政治について考える。
授業の方法	観光社会学は理論が重要であるが、できる限り、スライドや映像を使って、具体的に講義する。受講生の観光（的）経験からものを考えるようにするため、時々受講生に質問をする。コミュニカティヴな授業を目指す。理解度をはかるための、ショート・エッセイを授業内で書いてもらうことがある。
履修条件	社会学の基本的知識があること。場所や人間の「イメージ化」に関心をもっていること。「まちづくり」のハウツーを教える授業ではないので注意。
事前学修・事後学修，授業計画コメント	社会学の基本的な知識が必要。また、移動と人的ネットワークの創造、観光（旅）や観光地のまちづくり等の葛藤について関心を持っていることが望ましい。

授業計画
1	観光とは何か（オリエンテーション）
2	消費社会と観光ー観光と非日常消費、観光と自己承認
3	日本における観光の歴史ー前近代（巡礼、湯治等、伝統によって固定化されたイメージと形による観光）
4	観光の歴史ー前期近代（観光産業の興隆、大衆観光、ナショナリズム等、固定化されたイメージを人工的に増幅する観光）
5	観光の歴史ー後期近代（特化する観光、オルタナティヴツーリズム、オタク観光、固定化されたイメージや形式が崩壊し、観光客が参与しながら、観光資源を「再発見」「再創造」する観光へ）
6	観光化と観光の理論ーブーアスティン、マキァーネル、リッツアー
7	観光と社会的分裂１ー観光文化とステレオタイプの押しつけ：ハワイの観光から
8	観光と社会的分裂２ー観光文化とステレオタイプの押しつけ：由布院温泉（プロジェクトＸの由布院表象を批判する）
9	観光と社会的分裂３ー観光文化と生活文化の対立：アジアの少数民族観光から
10	観光と社会的分裂４ー映画『ザ・ビーチ』を観る
11	ディズニーランド化する観光地：アラン・ブライマンの「ディズニー化論」を検討する
12	社会のディズニーランド化について考える：ディズニーランドのキャストとゲスト。ディズニーランド型監視社会について考える。
13	ポスト・ツーリズム論：虚構を虚構と知りながら観光する観光形態について考える（マンガ・アニメ『らき✩すた』の聖地鷲宮、秋葉原観光を中心に）。アートツーリズムについて考える。ダークツーリズムについて考える。
14	ポスト・ツーリズムとメディア論：メディア化する観光地と観光地住民、観光産業従業員、観光者の参与（動員）について考える。観光化するショッピングモール等、体験を消費する社会について考える。
15	まとめ：観光はどこに向かっているのか。観光に対して、社会学はどのように向き合うべきか。

その他
教科書	須藤　廣、遠藤　英樹『観光社会学 2.0』福村出版 2018年第1版
参考書	須藤廣『観光化する社会ー観光社会学の理論と応用』ナカニシヤ出版 2008年第1版須藤　廣『ツーリズムとポストモダン社会―後期近代における観光の両義性』明石書店 2012年第1版鈴木謙介『ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで（NHKブックス No.1207）』ＮＨＫ出版 2013年第１版
成績評価の方法及び基準	レポート(80%)、授業参画度(20%)
オフィスアワー	授業終了後、本館２Ｆの講師控え室にて20分程度